映画『HAPPYEND』(10/4公開)試写感想
10月4日から全国ロードショーされる映画『HAPPYEND』を試写にて鑑賞させていただきました。
▼公式サイト
https://www.bitters.co.jp/HAPPYEND/
▼インスタグラム
https://www.instagram.com/happyend.movie
現在と地続きの未来で、境界線のない若者の友情や葛藤と、分断され続ける社会との対峙を描いた素晴らしい映画でした。
まずはイントロダクションから。
Introduction
「ありえるかもしれない未来を舞台に描く青春映画の新たなる金字塔が誕生!」
ユウタとコウは幼馴染で大親友。いつもの仲間たちと音楽や悪ふざけに興じる日々を過ごしている。高校卒業間近のある晩、こっそり忍び込んだ学校で2人はとんでもないいたずらを仕掛ける。翌日いたずらを発見した校長は激昂し、学校に四六時中生徒を監視する AI システムを導入する騒ぎにまで発展。この出来事をきっかけに、コウは、それまで蓄積していた、自身のアイデンティティと社会に対する違和感について深く考えるようになる。その一方で、今までと変わらず仲間と楽しいことだけをしていたいユウタ。2人の関係は次第にぎくしゃくしはじめ...。
決して遠くないXX年後の日本。多種多様な人々が当たり前に暮らすようになっている一方で、社会には無関心が蔓延し、むやみやたらに権力が振りかざされている。それはまさに今の世の中と地続きであり、あまりにもリアリティのある未来だ。そんな世界で当たり前だった“友達”という存在が揺らいでいくさまを、環境音やテクノなどが織り交った独特なサウンドと、圧倒的にエモーショナルな映像美で見事に表現。脈々と受け継がれる青春映画の系譜でありながらも、これまでに見たことのない切り口で“友情の危うさ”を描いた青春映画の新たなる金字塔が誕生した。
※公式サイトより転載
もう一度申し上げますと、素晴らしい映画でした。
映画全体を包むのは、都会でもなく田舎でもない私たちが見慣れた日本と歪なほどに肥大化した監視テクノロジーの姿。その中で、様々なアイデンティティを持った未成熟な若者たちが生き生きと、生々しく描かれています。不穏さと抒情さが漂う音楽も、構造物と人物を印象的に切り取るカメラワークも、作品全体に見事に溶け合っていて、非常に居心地良く感じました。
高校生であるユウタたちの学校は、3分の1ほどが日本へ帰化していない他国にルーツを持つ子供たち。彼らはともに生きる同じ人間として関わり、境界線なく、当たり前の日常を送ります。それに対して、「日本人」が強調される大人たち。「安全」という名のもとに振り翳される監視テクノロジー。大人たちが自ら考えることを放棄し、良いことや悪いことを自ら伝えていくことを恐れ、線を引くことをAIシステムに委ねてしまう世界。これはもう、我々にとってすぐそこに迫っている世界と言わざる終えません。
子供たちはこの世界で、いかに自らの生き方を選択していけばいいのか。大人たちは子供たちの何を見て、何を守っていかなければならないのか。AIが判断する善悪を基準に作られる規範が学校に持ち込まれることで、子供たちはどのような大人になっていくのか。どのような親になっていくのか。その結果どのような社会が作られていくのか。人間は自らで考え、イメージし、具現化する生き物であり、その具現化するためのツールを開発してきたと思うのですが、これは「考え、イメージする」こともツールに頼り、社会システムを作るようになってしまう未来のお話。それに苦しむ大人のお話にも感じました。
私は、考えることをやめたくありません。
この世界に生きる人物を演じる若い俳優陣は瑞々しく、自然体で虚飾がなく、今にも壊れそうで、泣き出しそうで、棘があって、不安で、無敵さと焦燥感に溢れた素晴らしい演技でした。そして名優佐野史郎氏の存在感も抜群。113分があっという間でした。
子供たちは揺れ動くアイデンティティの中で、必死に目の前を生きています。ついていけていないのは、いや、ついていこうとしていないのは、我々大人なのだと思いました。考えることはやめてはいけない。子供たちに大切なことを伝え、守っていくために、我々は考え続けなければなりません。
物語序盤の、若者たちが駆け出して鉄道と交わるシーンはとても美しく、彼らの自由と混沌の世界に引き込んでくれました。素晴らしい映画です。空監督の長編映画デビュー作ということで、今後もとても楽しみにしたいと思います。
名古屋では明日(10/4金)からミッドランドスクエアシネマにて公開です。ぜひ劇場でご覧いただければ幸いです。
CENTRE代表 中村
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