ペルソナ 脳に潜む闇

著:中野信子 

 

「ペルソナ」とは、ユングの概念であり、「人間の外的側面」。それが当人の本質であるかどうかは問題ではありません。 

 

本著は、脳科学者・認知神経科学者の中野信子氏の自伝的エッセイです。特徴的なのが、過去~現在へと時系列に進行するのではなく、現在から過去へ、様々な出来事や自身の心象に触れながら、ゆっくりと過去に向かい、より深く自分身へと潜っていきます。 

 

”過去に存在した無数の事実の集積で、人間はできている。そのデータのどの部分に焦点を当てて語るのかは、当人の問題意識にかかっている。その問題意識とは、現在の自分の持っている問題意識である。つまり、過去の自分を語ることは、ベネディット・クローチェが「全ての歴史は現代史である」と喝破したように、現在の自分を語るのと同じことなのだ。” (原文抜粋) 

 

時間を要することかもしれませんが、過去の特定の記憶を掘り起こすより、「今の自分を構成する要素」を丁寧に紐解き、それが何を意味しているかと考えることは、本質的な自分に辿り着くためにとても合理的な方法かもしれません。ただ、必然的に自身の「闇」と向き合うことになりますが、、。 

 

中野氏は、「本当の自分」など存在せず、モザイク状の多面体のようなものなのではないかと語っています。そして、光の当て方によって人格は様々な色に変化し、見え方も形も変わる。人には、相対する人によって表出する個別の側面が必ずあります。人によって違う自分が現れるのが当然で、脳の機能的にもそれが正常であると語っています。 

私は、個別の側面は自分自身に対しても存在して良いと思っています。自分の人生が客観的にどうかなど、どうでもよいことです。自分の人生の尺度は自分でしかありません。自分の人生を謳歌するのは、自分です。 

 

中野氏の現在に至るまでの様々なエピソードを読みながら、その「自分語り」についてどう思うかは人それぞれですが、それこそが、その時自分に表出した側面を感じ、考えるきっかけを与えてくれるような気がいたします。 

本書の最後、「これは私の物語のようであって、そうではない。本来存在しないわたしが反射する読み手の皆さんの物語でもある。」 

 

自分の「闇」に触れ、深く見つめることで、今の自分を救うことができるかもしれません。

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