【詳細レビュー】日本人のためのピケティ入門: 60分でわかる『21世紀の資本』のポイント

日本人のためのピケティ入門: 60分でわかる『21世紀の資本』のポイント

池田信夫(著


フランスの経済学者トマ・ピケティが著した大著『21世紀の資本』は、21世紀に入り世界中で議論を呼び起こした本です。700ページを超える膨大なデータと理論を背景に、「資本主義はそのままでは格差を拡大し続ける」というシンプルかつ衝撃的な命題を突きつけました。経済学に詳しくなくとも「r > g(資本収益率は経済成長率を上回る)」という不等式の響きは、一度耳にすると忘れられないものです。しかし、その難解さから「読んでみたいが読み切れない」と感じた方も多いのではないでしょうか。


池田信夫さんによる『日本人のためのピケティ入門』は、そんな壁を越えるための入門ガイドです。本書はわずか60分で主要な論点を押さえられるよう工夫されており、Q&A形式で「なぜ格差は拡大するのか」「富の集中は社会にどんな影響を与えるのか」といった疑問に答えていきます。ピケティ理論のエッセンスを抽出し、日本の文脈に引き寄せて解説しているため、初学者にとっては格好の入り口となるでしょう。


ピケティが膨大な歴史的データから導き出したのは、資本主義社会では富める者がますます富む「構造的な仕組み」が存在するという事実です。資本を持つ人はその利潤を再投資し、より大きな資産を築いていく。一方で労働による所得の伸びは経済成長率に縛られるため、両者の差は世代を超えて拡大していきます。結果として、社会全体の格差は自然に縮小することはなく、むしろ放置すれば広がり続ける——。本書はその核心部分をわかりやすい言葉で伝え、現代社会を考えるうえで避けて通れない問いを提示します。


さらに池田氏は、この理論を日本に当てはめた場合の特殊性にも触れています。少子高齢化、低成長、国の債務増大といった課題は、日本社会における格差問題をより複雑にしています。たとえば「日本で格差は広がっているのか」「増税は本当に不可避なのか」といった身近な疑問を、データや理論を背景に読み解くことで、ニュースの見方も変わっていくでしょう。


『日本人のためのピケティ入門』は、単なる要約本ではありません。ピケティの議論を日本の状況に照らし合わせ、私たちが直面する現実とどう向き合うかを考える契機を与えてくれます。資本主義の未来を問うことは、同時に自分自身の生活や将来をどう設計するかを問うことにほかなりません。「経済学は遠い世界の話」と思っていた方にこそ、まず手にとっていただきたい一冊です。

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