【書籍レビュー】ロバート・ウォールディンガー / グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない

ロバート・ウォールディンガー(著

グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない


「幸福とは何か」。

ハーバード大学の成人発達研究は、その問いに80年以上かけて答えようとしてきました。

著者ロバート・ウォールディンガーは、数百人の人生を追跡し、「何が人を長く、豊かに生きさせるのか」を探りました。

その結論は驚くほどシンプルです。

健康でも富でも名声でもなく、人との関係性こそが幸福の中心にあるということ。

成功の指標を外側に置きがちな現代社会において、この発見は静かな逆説のように響きます。

本書は、データの積み重ねを通して、“つながりの質が人生の質を決める”という事実を、静かな説得力で伝えていきます。


本書が描く幸福とは、単なる社交性や交友の多さではありません。

むしろ、信頼・理解・共感のある関係が心身を整えるという、人間の根源的な構造を明らかにしています。

孤独が健康を蝕み、心の安定を失わせるように、関係性は幸福の“インフラ”でもある。

この視点を裏付ける研究成果の数々が、本書には静かに並んでいます。

同時に、著者は「いまからでも遅くない」と繰り返します。

親しい人との再会、連絡の途絶えた友人への手紙、小さな挨拶の積み重ね――

人と再びつながる行為こそが、幸福の再生をもたらすのだと語ります。

幸せとは、築くものではなく、思い出すもの。

その言葉が、胸の奥で長く響きます。


この本の魅力は、希望を語りながらも感傷的にならないところにあります。

著者は、「幸福の条件」を外に探すのではなく、自分の時間の使い方と他者への態度を見直すことを提案します。

「何を得たか」よりも「誰と時間を共有したか」こそが人生の質を左右する――

それは哲学的でありながら、どこか実践的な指針でもあります。

読後には、自分の周りの人たちを少し違う目で見るようになります。

「この人と過ごす時間を、大切にしたい」

そう思えた瞬間、幸福の定義はもう変わっているのかもしれません。



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