【書籍レビュー】デザイン研究所 / デザインのミカタ 無限の「ひきだし」と「センス」を手に入れる

デザイン研究所(著

デザインのミカタ 無限の「ひきだし」と「センス」を手に入れる


デザインというと、絵が描ける、発想が豊か、センスがある――

どこか“特別な才能”の領域と考えられがちです。

しかし本書『デザインのミカタ』は、その認識を静かに裏返します。

著者の「デザイン研究所」が示すのは、「デザインとは、人や世界を丁寧に観察し、整理し、言語化するプロセスそのもの」だということ。

つまり、センスとは生まれ持った能力ではなく、“見方・捉え方の習慣”だと本書はやさしく語りかけます。


最初に提示するのは、「良いデザインをつくる人は、良く観察する人である」という視点です。

色や形を並べる前に、

・人は何に困っているのか

・この場所ではどんな行動が起きるのか

・どんな空気感を届けたいのか

といった“現実の手触り”を深く観察する。

これこそが「センス」の正体であり、観察の量と質が、表現の豊かさを決めると本書は断言します。そのため、デザインとは美術の領域ではなく、生活・仕事・人間理解の延長にある思考法 だとわかってきます。


そして本書の核心は、“ひきだし”は経験値ではなく、情報の整理によって増える、というメッセージです。

デザイナーが多くのアイデアを持っているように見えるのは、たくさんの素材を持っているからではなく、「見たもの」「聞いたこと」「読んだこと」「感じたこと」これらを小さく分類し、意味をラベリングし、“いつでも取り出せる状態”にしているからだと説明します。

これはデザインに限らず、文章、仕事、コミュニケーションにも共通します。

本書は、ひきだしを増やすための思考の型を視覚的に示し、読むだけで“頭の片づけ方”が見えてくるような構成になっています。


さらに強調されるのは、「デザインは形をつくるだけではなく、思考を鍛える行為」だということです。

良いデザインには、

・目的は何か

・誰のためか

・どんな体験をつくりたいのか

という問いが必ず存在します。

この問いを繰り返すことが、結果として人間理解を深め、ものの見方を広げ、“センスの良い人”と呼ばれる状態を生み出していきます。

本書はそのプロセスを図やチャートで可視化し、抽象的な言葉をできるだけ具体的な形に落とし込んでいます。難しい概念を扱いながらも、読んでいて疲れないのはそのためです。


デザインに関わる人だけでなく、企画、文章、接客、店舗づくりなど、“人と向き合う仕事”をするすべての人に役立つ本です。

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