【書籍レビュー】糸木 公廣 / 日本人が海外で最高の仕事をする方法――スキルよりも大切なもの
糸木 公廣(著
日本人が海外で最高の仕事をする方法――スキルよりも大切なもの
海外で働く、と聞くと、語学力や専門スキル、実績の有無がまず話題に上がります。
しかし本書『日本人が海外で最高の仕事をする方法』は、その前提を静かに問い直します。
著者・糸木公廣は、長年グローバルなビジネスの現場に身を置いてきた実務家として、本当に評価され、信頼される日本人に共通するものは、スキル以前の「姿勢」だと語ります。
本書がまず指摘するのは、日本人が海外で仕事をする際に陥りがちな誤解です。
それは、「迷惑をかけてはいけない」「間違えてはいけない」「きちんと準備してから発言しなければならない」という、日本では美徳とされてきた態度が、海外の現場では必ずしもプラスに働かない、という現実です。
糸木氏は、海外で信頼される人とは、完璧な英語を話す人でも、常に正解を出す人でもなく、自分の考えを率直に示し、対話に参加し続ける人だと述べます。
未完成でも、間違っていても、「考えていることを共有する姿勢」こそが、チームの一員として認識される条件になる。この視点は、海外に限らず、現代の仕事全般に通じるものです。
本書は、自己主張を強めれば評価される、という単純な話をしているわけではありません。
重要なのは、自分の意見を、相手との関係性の中でどう差し出すかという点です。
「相手の前提を理解しようとする」「自分の立場を明確にする」「違いを否定せず、背景を聞く」「結論よりプロセスを共有する」こうした姿勢があることで、国籍や文化を越えた信頼関係が育っていく。
糸木氏は、海外で活躍する日本人の強みとして、「調整力」「誠実さ」「継続性」を挙げます。ただし、それは黙って我慢することではなく、相手と丁寧に関係を結び直す力 として発揮されるべきだと強調します。
本書の中で印象的なのは、異文化理解を「正解探し」にしない点です。
文化の違いは、どちらが正しいかを決める問題ではなく、どう扱えば仕事が前に進むか、という実務の問題。だからこそ、相手の文化を完全に理解する必要はない。むしろ、「わからないことを、わからないと言える」「違和感を共有できる」そんな態度が、現場では評価されます。
異文化の中で働くということは、自分の価値観を手放すことではなく、自分の立ち位置を言葉にする力を磨くことなのだと、本書は教えてくれます。
この本は、海外で働く人のためだけの指南書ではありません。
むしろ、価値観の異なる人と協働するすべての人に向けた、「信頼される仕事の基本」 を描いた一冊です。スキルを磨く前に、どう関わるか、どう対話するか。
その姿勢が、国境を越えて仕事の質を決めていく。
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