『子どもの難問ー哲学者の先生、教えてください!』
編著:野矢茂樹
皆さんは子どもの頃、なんで?どうして?と大人にたくさん質問した時期はありましたか?
「ぼくはいつ大人になるの?」
「考えるってどうすればいいの?」
「どうすればほかの人とわかりあえるんだろう?」…
子どもが抱く、素朴な、とは言え大人でも答えを出すのは難しいー。
そんな疑問に対して、日本を代表する総勢23名の哲学者が思い思いに回答します。
一問一問真摯に受け止めて、丁寧に答える先生方の様子からは、「大人対子ども」ではなく「人対人」という尊重し合った関係が窺えます。
中でも印象的だったのは、「哲学者って、何をする人なの?」という問いに対する戸田山和久先生の回答です。
戸田山先生は、テツガクシャは「みんなの考えるスピードを遅くする役に立つ」ものであり、それが「世の中を健全に保つためにはすごく大事なこと」だと論じます。
常に前に進み、答えや結果を求められる社会。しかも早急に。もちろん、社会で生きていくうえで、とても大切なことであるし、実際、進み続けないと、あっという間に社会に置いていかれてしまいます。しかし時として、この「前に進め」という声に対して、立ち止まることを求める「哲学」は、世の中にバランスをもたらす、とても重要な役割を果たしているのです。
ここで、心に留めておきたいと思ったのは、「哲学科で哲学を勉強していても、哲学を教えていても、その人がテツガクシャとは限らない。テツガクシャはどこにでもいる。」ということです。つまり、私たちもテツガクシャとして、十分に前述した重要な役割を担うことができるということです。
本著に登場する問いは、全部で22あるのですが、「答えはこうです。」とはっきりと書かれているものはほとんどと言っていいほどありません。さらに、それぞれの問いに対し、二人の哲学者が答えるという形式をとっており、まるで、必ずしも一つの答えを出さなくてもいいんだよ、と暗示さえしているかのようです。
まさに、哲学はそういうことなのではないでしょうか。頭の中に「分からなさ」を飼っておくことで、問いにいっそう深みが出て、また気づけば考え込む・・・。
読み終わった後も「考え続けること」へと私たち読者を誘う、哲学の世界。皆さんも、覗いてみませんか?
ぜひ、ご一読ください。
CENTREスタッフ 河合
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