【書籍レビュー】嶽村 智子・大山口菜都美・酒井祐貴子 / めくるめく数学。
嶽村 智子 大山口菜都美 酒井祐貴子(著
めくるめく数学。
数学というと、公式や計算を思い浮かべて身構えてしまう人も多いかもしれません。しかし『めくるめく数学。』が扱うのは、数字よりも“世界の見え方が変わる瞬間”です。
本書は、数学が苦手だった人、離れていた人にこそ開かれた一冊です。
教科書的な説明は最小限で、かわりに「数学がなぜ面白いのか」を、図・イラスト・短いコラムの形で軽やかに伝えます。ページをめくるたびに、日常の世界が少しずつ違って見えてくるような、不思議な感覚があります。
本書は、数学を「難しい学問」としてではなく、“世界をスッキリ見るレンズ” として紹介しています。
たとえば、
・図形がなぜ美しく感じるのか
・音楽やアートに数学がどう隠れているのか
・予測・偶然・規則性はどう関係するのか
こうした話題が身近な例とともに説明され、「数学=生活を支える考え方」であることが自然に理解できます。
“知識を増やす”より“視点が広がる”感覚が強く、読んでいると、世界の構造が静かに立ち上がってくるようです。
この本がやさしいのは、完璧に理解しなくていい、という前提で書かれていること。
フラクタル、確率、無限、乱数、黄金比……聞いたことはあるが説明できない、というテーマが並びますが、そのひとつひとつに“軽く触れるだけで十分楽しい”入口を用意しています。
“数学を勉強する本”ではなく、“数学の世界を散歩する本” と言う方が近いかもしれません。
「理解できた感」より「面白く感じた感」を大切にした構成で、知的好奇心が苦しさより先に立つように丁寧に設計されています。
本書の核は、数学を専門外の人が「大人として」読み直すための構造です。
つまり、仕事や暮らしを過ごしてきた経験があるからこそ、数学の話題が“目に見える現実”と自然につながっていきます。
・仕事の優先順位
・複雑な出来事の整理
・ものごとの捉え方
・偶然と必然の区別
こうした“生きる手触り”と数学的な視点が重なる瞬間が、この本の最大の魅力です。
読んだあと、「数学って思っていたよりずっと広い」「自分にも理解できる部分がある」と感じられます。
数学と仲直りする、あるいはもう一度距離を縮めるための、やさしい手引きのような一冊です。
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